狭心症と心筋梗塞

 狭心症と心筋梗塞は同じ系統の病気です。両方とも動脈硬化が主な原因で、心臓の冠動脈の内腔が狭くなり、心筋への血行が不足したりまたは遮断されるために、心臓の酸素不足が起こり、働きが突然おとろえる恐ろしい病気です。これらを総称して虚血性心疾患と呼んでいます。
 
狭心症とは、運動したり、興奮したり、大食したり、暖かい部屋から寒いところに急に出たりすると、心臓に急激な負荷がかかり、心筋が大量の酸素を必要としますが、冠動脈が狭くなっているために、心筋への酸素の供給がたりなくなり、胸痛を起こすものです。
 胸痛発作の程度はさまざまで、胸の中央が圧迫されたように重苦しく感じるものから、痛みが左肩や左腕にまで走ったりするものまであります(放散痛)。
 狭心症の発作が起こったときは、自分が一番楽な姿勢でじっと安静にして、発作がおさまるのを待ちます。また医師から亜硝酸剤(ニトロールやニトログリセリン)をもらっている人はそれを使用します。亜硝酸剤を使用して安静にしていても痛みがとれず、30分以上も痛んでいるようなら、心筋梗塞の疑いもあります。

 心筋梗塞とは、狭くなった冠動脈の一部分が完全に詰まって、血流がストップし、その部分の心筋が死んでしまう大変恐ろしい病気です。
 症状は動いている時はもちろん、安静時や就寝時にも突然激しい胸痛に見舞われ、それが数時間以上も続き、呼吸が苦しくなったり、意識がなくなったり、いきなり心臓が止まったりします。
 心筋梗塞の発作が起こった時には、無理に動こうとはせず、絶対安静にし、医師に連絡するか、救急車を呼ぶようにしましょう。
 心筋梗塞については次回さらに詳しくお話したいと思います。

 

これは最近当院に来院された64歳の男性の心電図です。
 左が安静時で、右が運動直後(トレッドミルによる運動負荷心電図)の心電図です。
 この人は、約2ヶ月くらい前から階段を昇ったり、速く歩いたりすると、胸が重苦しくなるような痛みを訴えてきました。よく話を聞くと、こういう胸痛は初めてだそうです。今まで大きな病気はしたことがなく、ただヘビースモーカーで1日40本以上も吸っていたそうです(それも40年以上も!)。
 この人の血圧は正常、胸の聴診による診察も異常なし。胸部X線写真は心肥大もなく正常でした。しかし安静時の心電図ではST低下という所見が認められました。すなわち左の心電図のST部分が正常の凸型の波形に比べて逆に下向きの逆さまの波形になっています。こういう心電図所見があるときは冠動脈の動脈硬化が強く示唆されます。そこでトレッドミル運動負荷心電図をしたところ、検査途中から胸痛が出現し、ST部分がさらに谷底のように深く下がりました。また不整脈(期外収縮)も出現しました。
 ニトロールを1錠なめてもらったところ、すぐ胸痛は消失し、心電図はもとのレベルにもどりました。
 こうしてこの人は狭心症が確認され、ただちに内科的治療が開始されました。そして劇的に症状は軽快し、現在ではかなりの運動までできるようになりました。 
 こういう新しく起こった狭心症は不安定狭心症ともいい、大変危険です。放っておくと急性心筋梗塞を起こして死亡することが多いからです。
 最近では早めに冠動脈カテーテル検査を施行し、PCI(percutaneous coronary intervention)すなわち、PTCA(風船で冠動脈を押し広げる)やステント(再狭窄しないように冠動脈に留置するもの)を入れたりすることが一般的になってきています。
 重症の時にはIABP(心臓補助循環)や緊急でバイパス手術を行うこともあります。